消費者契約法の主な規定について「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し」「消費者契約の条項の無効」を挙げました。
前回は契約の取消しについて記事を上げましたが、今回は「消費者契約の条項の無効」を中心に書きます。
任意法規と強行法規
法律には、契約で変更できる「任意法規」と契約でも変えられない「強行法規」があります。
例えば、民法で利息は年5%と定められていますが、現実では必ずしも5%ではなく、任意に定められています。
これが「任意法規」です。
一方、任意でいわゆる「トイチ」とし10日で10%の利息を課して100万円を貸し付けても、利息制限法所定の制限利息である年15%を超過する分は無効です。
これが契約でも抗えない「強行法規」であり、これを超える部分の返還を求めるのがラジオCMでおなじみの「過払い金返還請求」です。
事業者の損害賠償の責任を免除する条項(8条)
「強行法規」として、消費者が不利になる一定の条項は無効となります。
事業者の損害賠償の責任を免除する条項として、無効条項は、次のとおりです(消費者契約法8条)。
- 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
- 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
- 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
- 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
事業者が契約上の義務をしない事による損害について本来であれば事業者が消費者に対し賠償責任を負うのは当然なのですが、その責任全部を免除したり、責任の有無の決定権が事業者にあったり、そういった勝手な契約条項が無効になるのが「1.」です。
一方「2.」は、全部ではなく「一部」の免除をすることや、責任の「限度」の決定権が事業者にある、にとどまったとしても「故意」「重過失」による損害である場合は無効となる趣旨です。「故意」はわざと、「重過失」は、僅かの注意をすれば容易に有害な結果を予見し回避することができたのに漫然と看過したような場合です。
余談ですが、一般的に「過失」は、その結果が発生することを予見し認識すべきであるにもかかわらず不注意のためそれを予見しない状態を言います。
余談の余談で、刑法上の話になりますが、過失と故意の境目は結果に対する「認容」の有無と言われていますね。予想される結果を許して容認していれば故意、と。
横道に逸れました。
なお、「1.」と「2.」は、引き渡された目的物の種類や品質に関して契約の内容に適合しない場合であって、履行の追完(追加して満たす)をする責任や不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をするなど、一定の要件を満たすと有効になります(消費者契約法8条2項)。
「3.」と「4.」は「1.」と「2.」の不法行為による場合です。
この不法行為とは、契約上の義務をしない事を根拠(民法415条)にする債務不履行責任(1.と2.)とは異なり、契約外にも適用される責任(民法709条)です。ちなみに、このように同じ賠償責任でも請求根拠が違うと時効や立証責任が変わったりします。
このように、自分に都合のいい賠償責任の免除条項は無効になる可能性があるので、事業主の皆さんは気を付けましょう。
消費者の解除権を放棄させる条項等(8条の2)
事業者が契約上の義務をしない事により生じた消費者の解除権(民法543条など)を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する消費者契約の条項は、無効となります(消費者契約法8条の2)。
賠償責任同様、事業者に都合のいい解除権はく奪も否定されるので注意しましょう。
事業者に対し後見開始の審判等による解除権を付与する条項(8条の3)
今度は事業者の方の解除権です。
消費者が事業者に対し物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提供することとされている契約を除き、事業者に対し、消費者が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を付与する消費者契約の条項は、無効となります(消費者契約法8条の3)。
後見、保佐、補助開始とは、訳あって契約締結能力に制限をつけたり代理人を選任したりする審判です。
消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等(9条)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効となります(消費者契約法9条)。
- 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
- 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
事前に「違約金」などを定めるケースです。
「1.」は損害として不相当に高額な損害賠償額や違約金の設定を行う場合です。「2.」は利息制限法と同様の利率制限であって、消費者が支払う代金に適用するものです。
筆者は司法書士として「1.」を根拠に預り金の返金請求をすべく消費者側の原告代理人をしたことがあります。あまりこの点を意識しない事業者もいらっしゃるようなので、注意しましょう。
消費者の利益を一方的に害する条項(10条)
消費者の不作為(なにもしないこと)をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効となります(消費者契約法10条)。
消費者がなにもしないことをもって契約の申込み、承諾とみなす条項や他法令の公序に関しない規定適用に比較して消費者が不利になる条項であって、信義に従い誠実に行うとする民法の基本原則に反して消費者の利益を一方に害する規定は無効です。
抽象的ですが、消費者を食い物にするような条項を盛り込まないよう事業主は注意しましょう。
事業主が気を付けることのまとめ
事業主が気を付けることとしては、次のとおりです。
- 一方的に事業者に都合のいい賠償責任免除・免責はしないこと
- 債務不履行による消費者の契約解除権をはく奪しないこと
- 消費者の後見等開始によることをもって解除権を事業者に与えないこと
- 不相当に過大な違約金の設定や代金の遅延損害金の設定をしないこと
- 消費者を食い物にしないこと
以上です。
真っ当な事業であってもどこかで無効な条項が発生する恐れがあるので、事業主は注意しましょう。