以前、銀行にとある土地の担保抹消を頼まれました。
まあ通常は何てことない簡単な業務です。
しかし、その時はある一点の事実があることによって簡単な業務ではなくなりました。
所有者が市町村だったのです。
解除書類受領
まず、銀行から解除書類をもらいます。
通常通り根抵当権解除証書、登記識別情報、委任状をもらいました。
これで本来なら所有者から委任状をもらって申請して終わりなのですが、所有者の名が市町村でした。
論点としては「市町村も嘱託ではなく申請で登記ができるのか?」というところです。
上記のとおり申請なら受領書類を使ってすぐ申請、なのですが嘱託登記だと銀行の委任状と登記識別情報が必要なく、代わりに「承諾書」と「印鑑証明書」が必要です。
これは同業の方ならすぐ「うわあ・・・」となるでしょう。
通常、銀行からの印鑑証明書はもらうことがそんなにありません。こちらが書式を調べて作成した承諾書についても銀行側への説明が当然に必要になる訳で、納得してもらったうえでの押印となります。
銀行側からしたらルーチンから外れる業務になります。
申請とは違い共同で行わなくて良い、とする嘱託登記ですが手間から言えば余計に時間がかかり、何もうれしくありません。
とりあえず申請でチャレンジ
まあ、とりあえず申請します。
申請できる根拠は〔昭和33年5月1日民甲第893号通達〕として
「官庁または公署が登記義務者として、一般申請の手続に従って登記の申請をする場合にも、登記識別情報(旧登記済証)の提供を要しない。」
と、あるのでまず一般手続に従って登記の申請をする、できる前提に立っています。
他にもネットで申請による登記をしたような記述を見たので、
「こりゃあ行けるでしょ。」と思い管轄法務局に「申請」で担保抹消をすることにしました。
が・・・駄目っ・・・!
何故か電話で「申請じゃダメなので取り下げてください。嘱託でやってください。」と言われました。
納得できません。
法務局の言い分としては、下記の不動産登記法条文を挙げていました。
(官庁又は公署の嘱託による登記)
第百十六条
国又は地方公共団体が登記権利者となって権利に関する登記をするときは、官庁又は公署は、遅滞なく、登記義務者の承諾を得て、当該登記を登記所に嘱託しなければならない。
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国又は地方公共団体が登記義務者となる権利に関する登記について登記権利者の請求があったときは、官庁又は公署は、遅滞なく、当該登記を登記所に嘱託しなければならない。
登記官「116条で「嘱託しなければならない」と書いてるから嘱託じゃなきゃダメ!」
ぼく「いや、それは「遅滞なく」にかかっている訳で申請を否定していないでしょ。それに通達でも通常の申請を前提にした内容がありますよ?」
登記官「ウチではダメなの。これ以上言っても無理。」
ぼく「・・・」
法的根拠とか無視で「ウチはこうだから。」と、まさにお役所的対応をされました・・・。
結局・・・
いまだに納得できませんし審査請求でもしたら勝てると思っていますが、ずっと突っ張っても時間がかかるだけで依頼者さんに迷惑がかかるだけなので、やむを得ず嘱託登記に切り替えました。
ぼく「申し訳ありません。そういうことなので印鑑証明書と承諾書押印の手配をお願いします。」
銀行「まあ先生もそこは大変なんだろうけど、今後はあらかじめグレーな手続は言って欲しいですね。」
ぼく「今後気を付けます。すみませんでした。」(グレーじゃないと思うけどなあ・・・)
教訓
どんなに根拠や正しさがあっても折れざるを得ない場面があるので、珍しいケースはなるべくあらかじめ役所と打ち合わせましょう、としか言えないです・・・。